こんにちは、たみです。
ついにこの地にもやってきました。
UberEats。
前からね、ちょくちょく例のカバンはお見かけしていたの。あの聖衣が格納されていそうな形状のやつ。
ついにここにも来たか~と、緑と黒の四角いリュックを見かけるたびにね、UberEatsのサイトを見ていたの。
もうね、びっくりするほど対象地域じゃないわけ。なに?わたしが見ていたのは都会へのコンプレックスをこじらせた幻覚?鳳凰幻魔拳でも打たれた?わたしの食欲が生み出したイマジナリー配達員?
アルカイックスマイルが出ちゃったよね。期待と裏切りと己の食への執着がわたしに菩薩の微笑みをもたらした。まさに求不得苦。
これを機に、一切UberEatsのサイトを見るのをやめた。出前館とフードパンダのカバンを見かけることも多々あって心は揺れ動いたけれど、どうせ裏切られてしまうから。愛が憎しみに変わってしまうから。もうね、こちとら心のUVERworldが儚くも永久のカナシ歌ってるんだわ。
決心から数か月経ったある日、海外出張から帰国し東京で隔離されている夫からLINEが来まして、
「UberEatsっていろいろあって楽しい」と。
新手の煽りか?
我、田舎コンプレックスをこじらせし者ぞ?
ご丁寧に紹介コード付きでメッセージ送ってきよって。おーおーやんのか?田舎モンにも意地ってもんがあるんだよ。ホイホイのせられると思ってるのか。
えっ1500円引き?コード入力すると?
爆速でUberEatesのサイト開いたよね。田舎モンのプライドは1500円以下なんで。
そしたら、出るわ出るわの提携店舗。わたしがアルカイックスマイルしている間にUberEats対象地域になってたみたい。
田舎者のわたしは、紹介コードでねじ伏せた。でも、奴がじっとりとこっちを見ているわけ。
ケチのわたしが。
わたしは普段から原付を移動手段として生きているの。自分で自分にフードデリバリーしてるといっても過言ではないの。だからこそ、「これ他人に頼むことかね?」というケチ精神がひょっこり出てきてしまって、全然メニュー選考が進まない。
どうせなら普段食べないもので、なおかつ自力ではいけないところがいい。
となると、かなり限られてきちゃう。あんなによりどりみどりだったはずの店舗選択画面が急にちっぽけに見えてくる。
でもね、スクロールしたら見つけてしまったわけですよ。
ケンタッキーフライドチキンの文字を。
ケンタッキー自体は、自宅からそう遠くない位置にある。原付に乗れば20分もせずに到着できる距離。ただ、中央分離帯があるうえに、3車線の広い道路に面しているせいで原付で向かう難易度がちょい高め。その立地が原因で、引っ越してきてから一度も行ったことがない。
こういう場所こそプロにお願いすべきなのでは?ということで、この日の夕飯はKFCに決定した。
合っているかいまいち確信がもてないまま利用者登録をして、注文した。
ビビりなので、もうずっとハラハラしっぱなし。これ断られるとかあるんかな、電話のマークあるけど急にかかってきたりするんかな?と、進捗画面のカウントダウンを見つめ続けた。そうこうしているうちに、デリバリーしてくれる人が決定して、その人の現在地を示す地図が表示される。
このころには、もう緊張は最高潮に達していた。どうすればいいかわからなさ過ぎて、ひたすらにケンタッキーのビスケットを割るイメージトレーニングをしたよね。もちろん進捗画面からは目を離していない。
UberEatsってね、宅配してくれる人の顔写真が見れるの。へーこんな人なんだーと。写真まで公開しなきゃならんとは大変だなーって思ってた。
んで、プロフィールをみると、「対応言語:ポルトガル語」って書いてある。
こんな異国の地で配達しているなんですごいなーなんて、のんきに眺めてたの。
そしたら、メッセージが来た。
たぶんポルトガル語で。
私、モノリンガル歴20年以上の大ベテラン。日本語以外はほぼ分からない。中学校の英語教師に「一生日本で過ごすから英語分からなくてもいいんですぅ~」つってナメた口きいてた。
もうね、全然よくないよ。世界はつながっているの。いくら島国ニッポンといえども国際化のビックウェーブの前ではそうもいっていられないの。
嘆いたところで急にポルトガル語ができるようになるわけではないので、とりあえずGoogle翻訳に来た文章を突っ込んでみると、なんとなく「この人はうちの場所が知りたいんだな」ということがわかった。
どういうわけか、我が家の住所は、管轄によって見解がわかれるところではあるらしい。引っ越してきたとき、水道局に登録されている住所と、事前に聞いていた住所がちがうし、市役所と郵便局でも意見が分かれていた。とりあえず住民票の住所をUberEatsには登録しているけど、Googleマップでは検索できない。ほかの住所でも、Googleマップ上では空き地が出てきてしまうので、混乱をもたらす。
「いつか解決すればいっか~」と放置していたけれど、まさかチキンを食べるために白黒はっきりしなければならなかったとは。
もうね、学が足りないの。
学があればポルトガル語でやりとりできたし、住所についても最適解が分かったと思う。
祖母は「今どきは女でも、学がなきゃぁまんまが食えんで」といってわたしが大学に通うのを賛成してくれた。ごめん、ばあちゃん。大学は出たけど、学が身につかんくって、チキンすら食えんかもしれん。
しかし、もうビスケットのイメージトレーニングを繰り広げたわたしの体は、なんとしてもKFCを摂取しなければ満足しない状態になっていたの。唾液はすごいし、胃からは詰まった排水溝みたいな音がする。
言語が使えないなら、わたしにやれることはあと一つ。
ボディランゲージだ。
家をとびだして、近くの交差点にダッシュした。うちに来るには必ずここを通らなければならない。ここでそれっぽい人にアピールすればなんとかなるかもしれない。
自転車、原付、それっぽいかばんの人にはかたっぱしから手を振った。
普通に素通りされた。
うん、まぁそうだよね。日も暮れた時間に謎のジェスチャーをしている女とは、わたしもお近づきにはなりたくないかな。
恥ずかしいし、もう次でやめよう。と渾身のジェスチャーをバイクに向けてはなったら、なんと止まってくれた。
しかも、わたしの配達員さんだった。
こんな奇跡ある?
ばあちゃん、やったよ。学はないけど、根性でチキンは食べられそうだよ。
突然止められて、くそ寒いのにじっとり汗をかいている女が「アリガトゥー、サンキュー、オブリガード」つって近づいてくるの相当怖かったと思う。警察に通報しないでくれて本当にありがとうUberEatsの人。
妙な疲労と達成感を感じながら食べるケンタッキーはおいしかった。
ちょっとだけしょっぱかった。
次はバイリンガルになってから注文します。