異世界からのお声が一向にかからない。
『ふしぎ遊戯』生まれ、なろう系育ち。悪そうなトラックはだいたい友達。
幼き頃より「そろそろ異世界に呼ばれるかなー」つって指名を待ちつつ幾星霜、全然呼ばれない。
今や一定の地位を築いた『異世界転生モノ』と呼ばれるジャンル。主人公がなんらかの理由で現代日本ではない世界に転移し、転移先で第二の人生を送る作品を指す。主人公は異世界送りとなる際に特殊能力を授かっている場合が多く、力を活かしてバリバリキャリアを築いていくさまが痛快だ。
わたしも異世界で最強能力をふるってハッピーセカンドライフを送りたいのに、お呼ばれがないままアラサーになってしまった。
こうも異世界に召喚されないとなると、この世は異世界で、すでにわたしはどこかの世界から転生してきた身という説が濃厚になってきた。
ということは、わたしも、何らかの”魔法”や”スキル”が使えるかもしれない。授かった記憶はないけれど、秘めたる何かを持っている可能性はある。
わたしはどんなスキルを持っているのだろう。魔法の適性とかあるのかな?スキルは?レベルは?
よーし
ステータスオープン!
ステータスッオーープンッ!!
ステータスが浮かび上がるタイプの本よ!!
鏡よ鏡よ鏡さん!!!
だめだ。ステータスが見られない。うんともすんとも出てこない。
これじゃあ適性がない分野にスキルポイントを無駄振りしてしまったり、真の能力が分からずパーティーを追放されてしまう可能性がある。
異世界転生モノでは「ステータスオープン!」掛け声と同時に、ステータス画面がババッと出てくるのが定番なんだけどな。おかしいな。
わたしの「ステータスオープン」の発声に問題はないはず。きちんと念じながらやっているし、滑舌にも気を付けている。
手を突き出すポーズをしてみたり、道具を介してみたりしたけどダメ。
一体何が足りないんだ。
なんか、音が鳴ってるな、ステータスオープン直後に。
「ブゥゥン.」って。
確かに、わたしの記憶にある数々のステータスオープンでは、このような謎の音が発せられている。
この謎の音、わたしがステータスオープンするために必要な最後のピースなのではないか?
この音を、我が物にしたい。
しかし、一体この音はどこから、どんなふうに発せられているのか、見当もつかぬ。
そこで、漫画作品でステータスオープン描写のあるシーンのサンプルを集めることにした。
漫画内に、ステータスがオープンされているっぽい描写があれば1つのサンプルとしてカウント。そのため、「ステータスオープン」以外の掛け声(例:「ステータス鑑定」、「スキル表示」など)も1シーンとしてカウントしている。
また、1つの作品内で複数のステータスオープン描写があった場合、重複はサンプルとしない。
擬音語か擬態語か判断しかねる音はとりあえずサンプルとしてカウントする。
これらのルールに則り、あとはひたすら漫画を読む。
もっと賢い方法がありそうだが、他に手段が思いつかなかった。
こうして来る日も来る日も漫画を読み続けて、100シーン分のステータスオープン場面のサンプルを収集した。
そもそも、ステータスオープン音は鳴っているのか
「ステータスオープンの時には音がする」という前提で話を進めてきたが、そもそも本当にステータスオープンの時に音は鳴っているのか。わたしの思い違い、もしくは少ない事例を勘違いしているのではないか。
まずは、ステータスオープン時に音がなっているかどうか調べた。
実に8割のステータスオープンで何らかの音が鳴っていた。
【音を出していた作品(一部)】
しかし、残り2割は無音。
【音を出していない作品(一部)】
つまり、ステータスオープン時に音を鳴らす人は多いが、鳴らなくてもなんとかなるということが分かった。
わたしがステータスオープンできないのは全て音のせいだと思っていたので、大変残念である。ステータスオープン音は「あったほうがいいけど、なくてもいい」という弁当に添えられたバランのような存在でしかないのか。
調査を進めると、最初はステータスオープン音が鳴っていたのに、途中音がなくなる作品があることに気づいた。
【音の有無が変わる作品(一部)】
これは興味深い。最初は音なしではステータスオープンできないが、ステータスオープンの数をこなし慣れることで、音なしでステータスオープンができるようになるのか。
ステータスオープン音は決して弁当のバランのような存在ではない。異世界で生きようとする主人公たちを支える、補助輪のような役割に違いない。
わたしは異世界転生初心者なので、音がなければステータスオープンができないのも頷ける。
ステータスオープン音にはどんなものがあるのか
ステータスオープン音は、よっぽど腕に自信のある異世界転生者じゃないかぎり、鳴らしておいた方がよさそうだ。
では、音ならなんでもいいのか。「ステータスオープン!」と叫んだついでに屁をこけば音が発せられたことになるかと言われれば、きっとそうではないはずだ。というか、そんなの嫌すぎる。
ステータスオープン音のトレンドを探ることにした。
ステータスオープン音のバリエーションは大変豊かであった。
各自おもいおもいのサウンドを奏でている。
「ヴン」の割合が7.5%と頭一つ抜けているものの、他の音と大差ないように思う。
サンプルを見ていると、似たような音が多いことに気づいた。「ブン」と「ヴン」に大きな差はないと思う。ましてや、「ヴン」と「ヴン...」なんてほぼ同じ音だ。
そこで、似ている音を主観でまとめてみた。
そして、改めて集計しなおしたグラフがこちら。
「ヴン」「ブン」「ヴォン」などを擁する、ヴン系サウンドが約4割を占めている。
4割と言えば、日本の自動車のうち軽自動車が占める割合と同じぐらいらしいので、結構な数である。
ステータスオープン音の定番と言っていいだろう。
【ステータスオープンでヴン系の音が出る作品(一部)】
他の人と差別化したい場合(クラス全員で異世界に呼ばれてしまった場合など)は、「その他」でまとめたような、マイナーな音を出せれば個性をアピールできる。
わたしはトレンドに身を置きたい性分なので、ヴン系ステータスオープン音を採用したい。
ステータスオープン音を手に入れよう
ここまでで、「異世界初心者はとりあえずステータスオープン音を鳴らしておくのが無難」、「迷ったら「ヴゥン」って感じの音を出しておけばOK」ということが分かった。
あとは実際に音を鳴らすだけだ。
しかし、この「ヴゥン」な音とはいったいどこで手に入るのか。
ぱっと思いついたのは、車の音だ。
小さいころ、誰しもミニカーを手にして「ブゥーン」と言ったことがあると思う。異世界転生のお約束、トラックにはねられる描写との相性もいい。
さっそく、車で音を出してみよう。
ひたすらに騒音。
ステータスオープンのたびに近距離でこんな音を聞かされていたら嫌になるな。ご近所の迷惑にもなる。
おそらく、バイクや飛行機でも同じ結果になるだろう。乗り物系はステータスオープンに適さない。
何か、何か「ヴゥン」な音を奏でられるものはないのか。
※イヤホン推奨
これだ。
ボタンを押してすぐに、かすかな「ヴンッ...」という音が鳴る。集中し、耳を澄ませなければ聞き逃してしまうほど儚い音に、我々は数々のステータスオープン音で「…」が表記されてきた理由を知ることになる。
加えて、後から広がる「ジジーッ...」という音は、定番のヴン系ステータスオープン音に加えられた、ほんの少しのスパイス。流行の中に光る個性を演出してくれる。
ふたつの要素がベストマッチしたこの音こそ、ステータスオープンにふさわしい。
これこそ、ステータスオープンの最後のピース、「ブラウン管テレビ」だ。
(ブラウン管(かん)テレビを しらない よいこは ちかくの おとなに きいてみてね!)
ステータスオープンしてみた
ブラウン管テレビの電源を入れた音がステータスオープンにふさわしい音だと判明したところで、さっそくステータスオープンをしてみよう。
ステータスオープンにブラウン管テレビが必要だということは、今までやってきたステータスオープンポーズが誤りだったと分かる。手のひらを突き出すポーズや鏡に触れるポーズでは、ブラウン管テレビのボタンを押せるわけがない。
正しいフォームはこれだ。
ステータスオープン!!!
ヴゥン...ジジッジーー...
音量。
なるほど、音量を調整する能力ね。
しょっぺぇ〜〜〜〜
しない方がいいステータスオープンもある
いかがでしたでしょうか。
約400作品の漫画に目を通し、100個のサンプルを収集したにもかかわらず、実にさもしい能力しかないことが判明しました。
異世界転生者の充実無敵ライフの夢は絶たれましたが、テレビの音量調整スキルを活かして、堅実に娑婆を生きていこうと思います。
みなさんがステータスオープンする際の参考になれば、今回の結果も受け入れられるってもんです。
今回タイトルを紹介した漫画は全て「まんが王国」で読めるので、異世界に行くご予定の方は予習しておくといいでしょう。
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ブラウン管テレビも忘れずに用意してね。
それでは、ごきげんよう。