しもじものたみ

生き抜け!コンクリートジャングル

スーツと歯茎とわたし

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こんにちは、たみです。

 

わたしは、父と母の遺伝子をいい感じにブレンドして生まれた人間なんですけど、どういうわけかわたくし、日々母親のクローンに近づいていまして。もっというと母方の祖母の面影がね、こううっすらと、醸し出されてもきていまして。昔は「たみちゃんはお父さん似ねぇ~」なんて親戚に言われたもんですよ。今では父親成分が日々消えていきほぼ母のコピー。なんなら母の同級生に間違われもした。母は「わたしはあんたのおばあちゃんに間違われ続けた」といっていることから、母方の遺伝子が強すぎる説はある。

 

ここまで母に似るともうね、未来への期待ゼロ。年食ったらどんな顔になるのだろうという恐怖と少しの希望が誰しもあると思うのですが、そういうの全然ない。未来の顔面の変化サンプルがすでにご用意されているので。母と祖母がわたしの未来のレールを寸分違わず引いてくれちゃった。

 

これだけ母親似のわたしにも、父親の遺伝子を感じる部位がありまして。

歯。

歯並びがまったく一緒。

いやぁそこじゃないな。二重まぶたとか、ストレートヘアとか、そういう容姿評価に直結するところの遺伝子に活躍してほしかった。

下の前歯は1本前にせり出している。その両脇の歯が、しゃしゃり出た前歯の後ろでくっついているという展開。せり出た前歯さえなければきれいな歯並び。「わたしたちもとからこのメンバーでしたけど?あぁ前に出てる子?独特な子だよね笑」みたいな雰囲気を感じてしまう。口内でそういう空気感だすのよくないと思うよ。

 

この複雑な愛想模様の歯どもは、ちょいちょいトラブルを起こす。

まず磨きづらい。ただでさえナイアガラと呼ばれるわたしの唾液のせいで、歯石がつき放題。そこに加えて歯並びによる歯ブラシが届かないデッドスペースが爆誕しており、歯石がもうすごい。ちょっと気を抜くとすぐに築城される。

んで、歯茎が炎症をおこして出血。築城からの陥落。世はまさに戦国時代。歯どもが下剋上をコンスタントに仕掛けてくる。

 

タチが悪いことに、この歯茎がもうね、繊細。ストレスに弱いのなんの。心と体のどこよりも先駆けて耐えられませんアピールしてくるのね。耐えられませんと。もう出るとこ出させてもらいますと。でもね、わたしにも都合があるので。いやもうちょっとがんばってみて?と歯茎にいいらしい歯磨き粉なんか買ってみたりして、なんとか歯医者の予約日までご機嫌をとるのね。

 

で、まぁ、生まれてこのかたそんな歯茎なものですから、こっちも謀反慣れしてくるわけです。あっ出血?オッケー。慌てもしないし対処もしない。わたしの場合、痛みを伴わないからいいかなって。

 

あの日も、歯茎の謀反の気配はしていたけど、まだ全然警戒に値しなかったの。謀反?あの程度のものにわたしが打ち取れるかね、と。高みの見物。余裕ぶっこきながら電車に乗って目的地に向かっていたわけです。

 

この日は就活の最終面接。9月の中旬まで内定がなかったもんだから、気合の入りようがすさまじかった。たぶんだけど、ちょっとナイーブな歯茎がね、耐えられなかったんだろうね。気持ち歯くいしばったりしたし。

 

電車内とは比べ物にならないぐらい腫れちゃって、奴が。面接の待合室で一人謀反におびえる羽目に。いや、今更では?9月まで内定出ていないところでまず1回謀反起こしといたほうがよかったんじゃない?

 

時の流れは無常なので、「たみさんお入り下さい」と呼ばれてしまう。もうなるようになれ。歯茎も含めて雇ってもらおう。

 

歯茎という懸念材料があったにも関わらず、今までになくスムーズに面接が進んだ。普段であれば想定外の質問が来ると「なんだろ...ヘヘッ」とか言ってしまいがちなのに、そういうキモムーブが出ない。歯茎で焦りたおしたので一周回って冷静になれたのかもしれない。

勝利を確信した。これは、内定ですわ。と。

 

「あの、次の質問を、えっと...」

お?どうした面接官。緊張してるのか?

なんせ余裕ありますから、面接官も上から目線で見るわけです。

 

「スーツ、大丈夫そうですか?」

ん?

スーツ。

 

もうね、「驚き」。心の清水寺が「驚」をしたためて掲げちゃってた。

ギリギリ耐えてくれていると思っていた歯茎が、全然耐えれてなかった。あまりにサイレント決壊をぶちかましていたため、歯茎のオーナーが出血に気づけなかった。ヒートアップしたトークのたびにどうも口から血を吐き続け、スーツに血しぶき飛ばしてた。

しかも、量が尋常じゃない。歯茎にそんなに血を貯められるポテンシャルがあるなんて思ってなかった。ただのナイーブなヤツじゃなかったんだね。見直したわ。

 

あんなに余裕ぶっこいてたのに、急に「なんだろ...ヘヘッ」とかやり始めた大学生を見た面接官は何を思ったのだろう。というか面接官もさ、まずわたしの肉体の心配をしてほしい。ふつう血を出してる人間への声掛けって「スーツ大丈夫そうですか?」じゃなくないか。

 

お通夜状態になってしまったので、面接官が早々に面接を打ち切り、わたしは部屋の外に出た。ほのかに鉄臭いスーツで電車に乗るのはつらかった。おじいちゃんが席を譲ってくれたのはもっとつらかった。

 

案の定お祈りメールをいただき、わたしの就活は延長戦突入。

 

相当トラウマだったのか、歯茎の野郎がね、スーツを着るたびに謀反をおこすようになりまして。内定がでた後もスーツを着るだけで「いっちょかましますか」感を出す。お前のせいでこっちはトラウマなのに、被害者ぶるのis何?マッチポンプにもほどがあるでしょうよ。

 

幸い内定先は私服勤務だったので3年近くスーツを着る機会がありませんでした。

で、なんでこんな文章を書いているかというと、あるんですね、近々。機会が。

スーツが指定されてしまう催しが。

 

さすがにね、もう大丈夫だと思う。あの惨劇から5年は経ったし。そう思いたいけど前科者の歯茎なので、とりあえず今からスーツを着て様子を見ます。