こんにちは、たみです。
鏡ってあるじゃないですか。洗面所とかにあるやつ。
顔洗ったり、歯を磨いたりしているとき、ふと見るわけです。
なんか、アレ?わたしの顔ってこんな感じだっけ?
どうみても画素数が足りてない。
あの、だれかデータ量ケチりました?
おにぎりですら、FF15で大容量を割いてもらえるこの時代。かたやこっちサイドはリアル3D存在にもかかわらず顔面が初期のバーチャファイター。顔の主要パーツの位置はだいたいわかるけど、輪郭とか凹凸、質感みたいなものの情報がごっそり落ちてる。作りが全体的に雑。
なんでこんなことになってしまったのか、まじまじと鏡を凝視すると、まぁ粗が見えること見えること。
まず眉がいけない。もう自由。どこまでもフリーダム。長い毛から生えたてのルーキーまでドラグーンか?っつーぐらい散ってる。さながら瞼がヤキン・ドゥーエ。四方八方に伸び放題。目の上でキラ・ヤマトの種が割れている。
視線をもう少し上に向けるとね、本来前髪がある位置が、なんか、手薄。眉毛に対してどう考えても人員不足感が否めない。
大丈夫?戦線維持できそう?
かつての最前線には新兵のパヤパヤした産毛がパヤパヤしているけども。ごめんちょっと頼りないわ。主張だけはいっちょ前にしますけど、正直足手まといなんですわ。ここではヘアアイロンで挟めるような者だけが前髪と呼ばれますから。君たちはたこ焼きの上の鰹節とかに転職して思う存分パヤパヤしたほうがいいよ。
顔の下半分に目を向けてみるとね、なんか鼻の下のあたりにね、ふたつの盛り上がりがあるわけです。唇...?唇じゃないか!なんか久しぶりだな。元気してたか?
なんか顔色、顔色っつーか、唇色悪くないか?
お前、変わっちまったな。昔は「あんたまたその辺のきのみ食べて帰ってきたでしょ」と親に叱られるぐらい赤かったのに、今じゃ茶色なんだかベージュなんだかわからない色しちまってさ...。もうどう接したらいいかわからねえよ。
おそらく、人間というのは長い人生において画素数が落ちる時期が一定期間あるのだろう。生まれてから20年ぐらいは画素うなぎ上り。現実世界のモデリングに耐えうる。しかし、アラサーにもなると、画素にデータ容量割いてる場合じゃなくない?となるわけです。基幹システムのメンテ箇所が増える増える。そうして顔面の画素数を犠牲にして谷を抜けると、再び人生経験がシミやシワとなってディティールを上げてくる。再び画素が上がる。
いや、たぶん違う。これはわたしだけの問題でして、一般的な女性は日々顔の整備を欠かさず行い、画素の乱れは化粧で補正をしているはず。
まずわたしったら、いままでスキンケアも化粧もろくにしたことがなくて、ボディーソープでわさわさーっと顔を洗い、最安値の化粧水を料理でいうところの「適量」ふりかけて終わり。化粧?サラリーマン時代ですらないです。ちょっと嘘ついたわ、就活の時ですら面倒くさがってすっぴんで面接受けてた。
ゆえに、たみ、アラサー。
顔面の整え方が分からない。
大人になると人間自然に化粧ができるようになって、いい感じの服が選べるようになって「年相応」になると思ってたけど、全然そんなことなかったわ。なんとかして「年相応」を各種教育に組み込んでほしい。本来そんなのは社会から学ぶんだろうけど、学ばずに大きくなっちゃう哀れなモンスターもいるんだよ。わたしのようなね。
もう自分のことが手に負えなさすぎる。持て余しちゃう。
プロに介入をお願いしよう。
で、美容院に行ったわけです。
美容の院よ?絶対何とかしてくれる。字面がすでに頼もしい。
勢いでネット予約した美容院に行くとき、気分は道場破り。
「当店いま眉カットが割引中でして...」
やったぜ。お得じゃん。
でもそれ、初来店の人に開口一番でいうことじゃなくない?
たぶんね、プロが見たところ緊急性の高い眉毛だったんだと思う。わかるよ、だからわたしもここへ来た。内心ちょっと失礼やんけと思ったけども。
口は少々下手な美容師さんだったけれど、腕は確かなようで、みるみるパヤパヤ前髪が消えていく。これは眉カットも期待ができる。
ヘアカットが終了して、顔そりコーナーへ誘導される。
「今日はどんな感じの眉毛にしますか?」
へっ?どんな感じ?眉毛ってそんなにバリエーションある?
困惑しながら「強そうな感じで」つったら何かを察してくれたみたいで施術がスタートした。お願い、眉毛のメニュー表置いといて。
なんか、雲行きが怪しい。
わたしは目をつむっているし、店員さんは眉カット中だから無言なわけなんだけど、時折「アッ」って聞こえてくるの。最初は他の店員さんかな?何らかの機械の音かな?って思ってたけどどうやら自分の頭上から聞こえる。絶対この店員さんだわ。
しかも、途中から「アッ」が「ゴメンナサイ...」「ホントスミマセン...」に変わった。
「なにか」が起こっている。でも目は開けられないし施術はどんどん進む。
ここまで来たらもうどうなっても驚かない。店員さん、がんばって。
「はい終わりです...確認してください」と鏡を向けられた。そこには三分の一ほどの太さになった眉毛があった。近所のつけ麺屋の麺かな?って感じの太さ。
思わず「ヒョェ」って声がでたよね。
しかも店員さんが2人に増えてた。どうやら店長さんらしい。
「お客様の眉毛は...その...大変難易度がたかかったので...」と目を合わさずいうものだから、こちらも申し訳なくなってしまった。わたしの眉がヤキンドゥーエだったばっかりに店員さんが泣きそうになっている。店長さんも焦っている。なんかごめん。
まぁいうて、眉毛なんてね、一瞬で生えますから。大丈夫ですよ。と言おうとしたら、「体質によっては毛が生えてこないこともございますので。なんとお詫び申し上げたらいいか...」と。
なるほど~としか言えなかったよね。
その日の眉カット代500円は無料になった。「後日改めてお詫びに伺います」と言われたけれど、断った。わたしの眉にそれほどの価値はない。無料になっただけでもお釣りがきてしまう。たとえ2度と生えてこなくてもいい。むしろ、顔面の解像度を下げている一因が消えるのだから喜ばしくない?それはちょっとうれしい。
さらにいえば、今回の件でわたしは安堵しているわけです。
プロでも手に負えなかったものが素人にどうすることができようか。いや、何もできないだろう。言い訳を手に入れ、顔面メンテをさぼる大義名分を手に入れた。だからそんなに申し訳なさそうにしないで。
「もし、眉が生えてこなければ連絡をください。すぐにお詫びにうかがいます」と店長さんが申し出てくれた。かなり誠実な人だ。気分がいいね。
ずいぶんとほっそりとした眉をたずさえ、家路についた。眉も心も軽やかでした。
1週間後、わたしは美容院に電話をした。
「先日やっていただいた眉毛ですが、見事に蘇生したので大丈夫ですぅ」
顔面、整わねぇ~