こんにちは、たみです。
最近、食パンのおいしさに目覚めました。
まずね、名前がすごい。パンの名前に採用されるワードって、そのパンのセールスポイントなの。あんパンなら餡子、フランスパンならおフランスな雰囲気。一方食パンは、セールスポイント群雄割拠のパン界において、「食」の一文字をセールスポイントに生きている。どのパンも食べられることは前提条件なわけ。そのうえで、「わたくし餡子をなかに詰めることで新規性を獲得しました」とアピールしている。なのに前提条件だけで戦っている食パン。それだけで食パンのバイタリティの高さがうかがえる。
実際、食パンと「食」の場との相性は最高にいい。どこにでも溶け込める。朝昼晩のどの食事にも合わせられる。場所も選ばないので、自宅のテーブルで食べるのもよし、公園のベンチで食べるのもよし。和食には合わない？とんでもない。納豆を乗っけて食べてみたらこれがまたうまい。米に合うものはだいたい食パンと合わせてもうまいのだ。
食パンへの感謝に思いを馳せていると、ふと小耳にはさんでしまったんですな。
焼きたてがうまいと。
確かに、わたしは焼きたての食パンを食べたことがない。トースターなどで加熱したてのパンは数えきれないほど食べてきたが、それとは違うのだろう。
数年前に、おやつカンパニーの工場見学をしたときに、揚げたてのベビースターラーメンを食べた。「揚げたてがなんぼのもんじゃい」とふんぞり返っていたけれど、一口食べて驚愕。めちゃくちゃうまい。うますぎて２回並んで買った。帰り道の車内で食べる用も買った。ベビースターラーメンもこんなにおいしかったということは、食パンもオーブンから出したてがおいしいはず。
本当に焼きたての食パンがおいしいのかは、実はよくわからない。ネットで調べてみても、焼きたてがおいしいとか、〇時間置いたほうがおいしいとか、いろいろな意見があるようだ。
だったら、なおのこと食べてみたい。焼きたてがうまいかどうかは、わたしが決める。
しかし、ここで大きな壁にぶち当たる。
どうしても焼きたてからタイムラグが発生するのだ。
パン屋さんで焼きたて食パンを購入したとて、その場で食べる訳にはいかない。いい大人が店頭でおもむろに食パンをムシャついていたら、ちょっとしたホラーだ。それに、パン屋さんも己の信ずる最高の提供タイミングがあるだろう。焼きたてパンが必ずしもオーブンから出た直後とは限らない。
作るしか、ないのか。
YouTubeで「食パン 作り方」で検索した。ご家庭で簡単に作れるというのが売り文句の動画を開いた。わたしはまだ文明レベルが低いので、できるだけ簡単なほうがありがたい。作れるかどうかはわからないけれど、動画で雰囲気だけでもつかんどこう。
んで、動画をみていくとね、信じがたい工程がね、ありまして。
「無塩バターに塩を加える」というね。
無塩バターってさ、無塩であることがアイデンティティだと思うの。一般的な（有塩）バターと明確に区別するために無塩を名乗っているはずなの。なのに、こちらの都合で塩を足されちゃうわけ。
こんなむごいことがあっていいのか。無塩バターのプライドを傷つける行為なんじゃないのか。食パンのタネに投入された無塩バターはもはや無塩バターではない。かといって有塩バターかといわれると違う。なにバターなんだ。無塩バターのアイデンティティを返してあげてほしい。
もっと言えば、有塩バターもアイデンティティクライシスでしょ。無塩バターに塩を足せばいいのなら、有塩バターの立つ瀬がない。もうね、どのバターも幸せになっていない。
なのに、次の工程で寝かせるの。アイデンティティ奪っといて、寝かせちゃう。鞭からの飴。それにしたって、飴にもいろいろあるはずじゃん？謝罪するとかさ、いたわるとかさ。少なくとも、寝かせるではない。ぐずる幼児をあやしとるんか？自分のアイデンティティを奪われて「はい寝ましょうね～」つって、布巾かぶせられたら、もう困惑よ。相手がサイコパスであることを疑ってしまう。
んで、さらに寝かせる。もうねんねは２回目なわけ。いくら生地といえど、そんなに寝れるもん？ここまでなぁなぁにされれば、確かにバターも過去にされたことを忘れてパンになることに専念できるのかもしれない。わたしだったら一生根に持つけど。無塩バターが健気すぎて直視できない。いいやつすぎる。
そして、焼かれて完成。
めちゃくちゃおいしそう。おいしそうだけど、もうわたしはここに悲しき無塩バターがいることを知ってしまったから、背徳感がすごい。今度からパン屋に行くと無塩バターの声が聞こえてきそう。
今日も食パンはうまい。
食パンのおいしさの秘密は、無塩バターのプライドを奪った味なのかもしれない。
ちなみに食パンづくりは、わたしの文明力では力及ばないということが判明したので延期となりました。誰か焼きたての食パンを食べさせてください。
